作家の永井荷風も変人で好き嫌いが激しい作家の一人である。

 永井荷風も好きな人は好きで偏愛するが、嫌いな人は永井荷風を大江健三郎や太宰治を毛嫌いするように嫌いな作家と批判する人もまた多い。

 独居老人の変態趣味で70歳になっても浅草のストリップで女のエロスに耽溺した永井荷風の態度は自堕落人間で欲望の塊で大江健三郎の『性的人間』の老人版でもあるようだ。

 永井荷風も人間嫌いがひどく、困った偏屈者でもあったらしい。

 昔から永井荷風のスキャンダルというのは多く、自分の全財産をボストンバックに詰め込んで盗まれて騒ぎになったり、文化勲章を永井荷風がもらった時も何で永井荷風のようなふざけた作家に渡すのか?で伊藤整なんかは毛嫌いしていたという。

 奇人変人の老人といえば永井荷風で石川淳も嫌っていた永井荷風なのだが、実は大江健三郎が好きなフランス文学の根っこも有していたりもする。
 文化勲章をもらってからも永井荷風は浅草のロック座でストリップ小屋で女性の裸が大好きだったので周囲から70歳になっても愚かな振る舞いで周囲はけしからん!と批判を続けて愛想もつかしていたらしい。

 「稀代の変人作家」として生きた、永井荷風のこと

 遠藤周作も永井荷風の人生は作家としてよくない悪徳の栄えのようなもので嫌っていたともいう。

 しかし、永井荷風も日記文学で戦争に反対というか戦争嫌いを匂わせたり、隅田川の被差別部落の話とか関東大震災の朝鮮人虐殺へのこだわりもあって大江健三郎も永井荷風の小説からは影響も受けていたのではないか?とも思えてもくる。

 「断腸亭日乗」とか「濹東綺譚」も大江健三郎の小説に出てくる同和地区の話とか戦前の朝鮮人のあえぎ声も出てきてちょっと重苦しくもあり、グロテスクな光景に美しさの奇妙な日記文学の世界が垣間見える。

 永井荷風も親に反抗して官僚の息子だったが、ケンカしてフランス文学者になったようでもあるし、大江健三郎が好みそうなテーマも重なって見えるのは興味深い。

 永井荷風も変人作家の代名詞でもあったが大江健三郎もフランス文学の愛読者となれば自然と永井荷風の日記とか小説は読んでいて初期作品を書く上で影響もあったのではないか?とも思う。

 永井荷風も隅田川の下町に固執したのは実は関東大震災の朝鮮人虐殺や被差別部落の生活に同情していたというのもあるだろうし、実は反戦思想の持ち主でもあったらしく、日記では軍人批判やナショナリズム批判が多いのが永井荷風の作家生活でもあったのは確かなのだ。

 大江健三郎も永井荷風の考えは好感も感じていたのはもちろんありそうな気がする。

 永井荷風もいつもカツレツ丼を『大黒屋』で死ぬまで同じものを食べていたらしいし、晩年まで奇妙な生活をしていて性的人間の老人バージョンの見本なのか?とも思ってしまった。

 さすがに最近の大江健三郎は『性的人間』とか『セブンティーン』のような性的なリビドーは枯渇して今は政治的な人間だけになっているが、ちょっと永井荷風の日記のように軍人批判や自衛隊批判や在日朝鮮人や同和問題への理解は続いているような気がする。

 永井荷風と大江健三郎は似て非なる作家ではあるが、根っこで何かを共有するものが渦巻いていて愛読者は熱心なマニアも多い共通項もあるのは確かだ。