大江健三郎が高く評価する画家に20世紀の絵画の巨匠のフランシス・ベーコンがいる。

 フランシス・ベーコンなのだが同性愛の画家であって、人間の狂気を表現しながらも訴えるものが強い作風で現代美術を知っている人ならば避けて通れない重要な画家でもある。


 フランシス・ベーコン(Francis Bacon、1909年10月28日 - 1992年4月28日)は、20世紀のアイルランドを代表する画家。抽象絵画が全盛となった第二次世界大戦後の美術界において、具象絵画にこだわり続けた人物である。

 20世紀最も重要な画家の一人で、現代美術に多大な影響を与えた。

 作品は大部分が激しくデフォルメされ、歪められ、あるいは大きな口を開けて叫ぶ奇怪な人間像であり、人間存在の根本にある不安を描き出したものと言われている。

 大きな口を開けて叫ぶ姿は、口を開けた状態の歯がたくさん載った写真集(歯医者向けのものと思われる)や、映画 『戦艦ポチョムキン』 の中で、銃で額を撃たれて叫ぶ老女の姿を参照している。

 フランシス・ベーコン (芸術家)
 大江健三郎は哲学者のフランシス・ベーコンも知っていたが、画家のフランシス・ベーコンも後になって知るようになったのだろう。

大江:長編小説でも、即興性が大事。フランシス・ベーコンという画家。同じ名前の哲学者がいる。

即興性、偶然性が必要だ。偶然性を彼はアクシデントと言っ ている。

いいものにするためにはアクシデントが必要であると。偶然によって仕事を始める、が、それを書き直していく。最初の構想などないのだと言う。書き 直していくと自分がなにを表現したいのかが分かってくる。

ベーコンはこう言っている。書き直している間に小説ができてくる。その間に批評性が入る。私の長 編小説もこうして書いている。創り上げていく、それが文学だと。

NHK日曜美術館「恐ろしいのに美しい フランシス・ベーコン」

 同姓愛の画家で鬱屈とした内面を絶えず混沌の暗い絵のように表現したF・ベーコンに大江健三郎は性的な魅力のような力を感じていたのだろうし、F・ベーコンの何者かを恐れた人生を自分の小説の構想と同じものだ、と強く感じるようになったのではないか?

 画家のF・ベーコンも写真や昔の絵画の古典でヴァン・ゴッホの作品だったり、セルゲイ・エイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン』から絵画の構想を膨らませたことで自分の芸術を確保していて考えてもみれば大江健三郎の小説のような世界でもある。

 大江健三郎もF・ベーコンがエイゼンシュタインやヴァン・ゴッホを引用するようにして絵画を書いていたことに多いなる創作のヒントを得たのだろう。

 大江健三郎もF・ベーコンのようにオーデンやフォークナーやウィリアム・ブレイクの小説や詩から小説の構想を練るという行為が創作の原動力というのは読者ならば知っている。

 大江健三郎も偶然、F・ベーコンの絵画を知って今までアートや美術が理解できない人間であったが、徐々に理解できるようになって小説を書くイマジネーションにF・ベーコンの影響があることを認めているのだろう。

 大江健三郎もたまたまF・ベーコンの絵画を新聞広告で知って今まで美術は分からないで逃げていたが、F・ベーコンが同性愛の差別される性的少数者であってまさに大江健三郎の小説と同じく、引用から絵を書く画家ということを知ると、その良さを高く評価するようになったという。

 F・ベーコンも大江健三郎が好むエドワード・E・サイードのようなアマチュアであって専門的な美術の教育を受けていないが表現の開拓のパイオニアであったこともまたF・ベーコンを評価する理由でもあるのだろう。