大江健三郎が優れた作家であると方向性を決めた作品は『死者の奢り』であると思ってしまう。

 芥川賞を大江健三郎が受賞したのは『飼育』であるが『死者の奢り』は芥川賞候補になっていて、大江健三郎を評価する人は『死者の奢り』と『飼育』の両方で芥川賞作家の大江健三郎と評価する人が多い。

 厳密にいえば『死者の奢り』で大江健三郎は芥川賞というのは誤記なのだが、誤記とは厳密にいえば間違いというわけではない。

 『死者の奢り』の暗くも何か美しい魅力で哲学的な作品の魅力があるから作家の大江健三郎は優れた作家という大江健三郎愛好者の意見は私は正しいと思う。


死者たちは、濃褐色の液に浸って、腕を絡み合い、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、 また半ば沈みかかっている。彼らは淡い褐色の柔軟な皮膚に包まれて、堅固な、馴じみにく い独立間を持ち、おのおの自分の内部に向って凝縮しながら、しかし執拗に身をすりつけあっている。

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