大江健三郎の芥川賞の受賞作は飼育である。

 四国の山に戦時中にアメリカ軍の戦闘機が墜落して黒人兵をよそ者のように排除して差別の視線で見る人間の偏見や差別心をあぶりだした名作である。

 大江健三郎の作品で異物排除というか自分の住んでいる愛媛の森の小説となれば『飼育』のイメージが忘れられないという人もまた多い。


 僕と弟は、谷底の仮説火葬場、潅木の茂みを伐り開いて浅く土を掘りおこしただけの簡潔 な火葬場の、脂と灰の臭う柔かい表面を木片でおきまわしていた。

 谷底はすでに、夕暮れと霧、 林に湧く地下水のようにつめたい霧におおいつくされていたが、僕たちの住む、谷間にかたむ いた山腹の、石を敷きつめた道を囲む小さい村には、葡萄色の光がなだれていた。

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