大江健三郎のレイトワークで自分をモデルにした長江古義人というモデルが登場する。

 古義人というのはラテン語のコギト・エルゴズムというデカルトの『我思うゆえに我あり』からヒントも得ているのだろうが、もちろんどうもそれだけではないらしい。

 実際、長江古義人という小説の登場人物も夏目漱石の影響があることを大江自身が語っているのは興味深い。

大江氏は「実際の出来事をいくら書いても、もはや本当の僕の歴史ではありません。私はこんなふうに生きてきました──そう幾度も語り変え続けた自伝が、本当の自伝であるはずはない」。同時にこうも語る。

 「そうやって、自分の作品全体で再構成するように生き方を作り、偽りの自伝を生きるのが小説家の運命。最初に書いた小説から、一貫した脈絡は現在まで続く。それが僕の人生でした」
 
 ならば、大江健三郎は、すでに長江古義人なのか。

 「そうです。小説家として生きることは、その時代がその人間に集結すること。『こころ』の先生が明らかに漱石であるように、やはりこの時代の精神が、一人の小説家・長江古義人を走り回らせているんです」》

 大江健三郎のインタビュー記事
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