大江健三郎の初期作品に『性的人間』というショッキングな作品がある。

 主人公が痴漢というアダルト小説のようなエロ小説のようなショッキングな小説なのだが、なぜ、現代人は痴漢のような反社会的な行為に意味を見出すのか?という哲学的な作品でもある。

 冒頭は通俗小説というか大藪晴彦のようにスポーツカーのジャガーが登場して、主人公のJがカメラの一眼レフのアリフレクスでこれからさて・・・でちょっと自動車が好きな人はふと引き込まれそうな雰囲気でもあるのだが。

暗闇のなかを象牙色の大きなジャガーが岬の稜の突端まで疾走してくる。

ジャガーは夜の 海にむかって右に、滝のように不意に急勾配の降り坂となった枝道へはいりこみ、岬の南側 に脇の下のようにかくれている耳梨湾にむかった。ジャガーはアリフレクス16ミリを積んで いる。車も、撮影機も、みんなからJ(ジェイ)と呼ばれてい29歳の青年のものだ。


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