大江健三郎が画家のフランシス・ベーコンを高く評価する理由はどうも同姓愛の性的少数者の問題だけではないようにも思える。

 フランシス・ベーコンが自分の肉体を表現する際にこのような言葉を残している。

「わたしたちは肉である。いつかは死骸になる」

ベーコンは、そう言っていた。この絵を描いた頃のベーコンは30代半ば。画家としては無名であり、そもそも美術の教育など受けたことがなかった。

だが、この絵には確かな感情のほとばしり、「叫び」がある。肉の塊と化した生き物は、それでも大きく口を開け、何かを叫んでいるのである。

「人間の叫ぶということは、こういうことなんだ」

小説家・大江健三郎氏の耳には、ベーコンの叫びが聞こえている。

「一個の人間が叫ぶ。恐怖によって叫ぶ。怒りによって叫ぶ。悲しみによって叫ぶ。その叫び声が、こんなに見事にとらえられている絵はない。しかもこれは美しい」

「僕は美しいと思うんですね。フランシス・ベーコンという人が、戦後から21世紀までの絵の世界を完全にリードした人だということを、いま改めて感じています」

混沌の画家「フランシス・ベーコン」。心をえぐるその美

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